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岐阜地方裁判所 昭和43年(ワ)149号 判決 1969年11月27日

原告 国

右代表者法務大臣 西郷吉之助

右指定代理人 名古屋法務局訟務部付検事 松沢智

<ほか五名>

被告 脇田増夫

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 山本忠七

主文

一、被告らは、原告に対し、別紙物件目録記載の土砂をもって、別紙添付図面の赤斜線部分の凹地を平に埋めなければならない。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

(請求の趣旨)

主文と同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求める。

(請求の原因)

一、被告両名は共同して、昭和四二年五月四日から同月二五日までの間に、岐阜県羽島郡笠松町無動寺字村南二四三番の一地先、建設省所管一級河川木曽川水系北派川の河川区域内(別紙添付図面の赤斜線部分)において切込砂利を五三、七〇〇立方メートル採取した。

二、そこで原告は、同年六月七日および同年七月二五日付で、被告らに対し、河川法七五条一項に基づき、別紙添付図面赤斜線部分の凹地を原状に回復すべき旨の命令をなした。

三、しかるに被告らは右各命令に応じないので、右不法採取にかかる別紙物件目録記載の土砂をもって別紙添付図面赤斜線部分の凹地の埋立を求めるため本訴におよんだ。

(原告の認否)

一、否認する。

原告国(所管庁中部地方建設局長)は被告脇田に対し、昭和四二年四月二八日、河川法(昭和三九年法律第一六七号)二五条および二七条一項の規定に基づき前記河川の土砂(切込砂利)の採取許可を与えたが、その内容は次のとおりである。

(一)、採取の場所および採取にかかる土地の面積

岐阜県羽島郡川島町笠田地先

一、二〇〇平方メートル

(二)、許可数量

土砂一、二〇〇立方メートル

(三)、採取期間

昭和四二年五月一日から同月二一日まで二一日間

よって、被告らの土砂採取は全く右許可の範囲外である。

二、否認する。

(原告の立証)≪省略≫

(被告らの申立)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

(被告らの認否)

一、被告野田が同月二日ころより約一九日間、同所で約五、二〇〇立方メートルの切込砂利を採取したことは認めるが、その余の事実は否認する。被告野田は被告脇田の依頼により採取したものである。

二、認める。

三、理由がない。

(抗弁)

一、原告は建設省中部地方建設局木曽川上流工事事務所所員松井宇三郎、同近藤某を通じ、同年三月中ごろ、被告脇田所有の岐阜県羽島郡川島町松原町三ッ矢原野三段四畝歩を木曽川護岸工事の必要上買収し、その代金に充てるべく、同被告に対し、前記無動寺地先の広さ約一、五〇〇坪、深さ一メートルないし一、五メートルにわたり、約六、〇〇〇ないし七、〇〇〇立方メートルの切込砂利を、期間を四月初旬より向う二ヶ月以内と定めて採取することを許可し、採取現場を指示した。前記被告らの採取は右許可の範囲内でなされたものであって、被告らは何ら原状回復命令に応ずべき義務はない。

二、原告は岐阜地方裁判所の仮処分決定(昭和四三年(ヨ)第三六号事件)により、昭和四三年二月中に、自ら原状回復の方法を執ったが、その際、被告野田が訴外森撚糸菜外二名より買受けて貯積してあった、本件土砂に関係のない土砂約三五〇立方メートル(価額約五三、〇〇〇円相当)を右原状回復の土砂に不法に使用し、被告に損害を与えた。

(被告らの立証)≪省略≫

理由

一、本訴は河川法七五条による原状回復命令の履行を求める訴であるが、同法には何ら強制執行の規定がない以上、非常の場合の救済手段である行政代執行法による代執行によらないで、裁判所にこれが履行を求める訴を提起することも許されるものと解されるから本訴は適法な訴というべきである。よって本案につき判断する。

二、請求の原因第一項中、被告両名の関係、土砂の採取期間、採取量を除くその余の事実および同第二項記載の事実はいずれも当事者間に争いがない。

三、≪証拠省略≫によれば、被告脇田が昭和四二年四月一七日、中部地方建設局長に対し、抗弁に対する原告の認否欄第一項記載のとおりの内容の土砂採取許可申請書を提出し、同月二八日付で同内容の土石採取許可書の交付を受けたこと(もっとも現実の交付は採取許可期間を過ぎた同年六月六日であったものと認められる)、これより先、同年三月中ごろ、被告脇田は被告野田に対し、土砂の売買の申し込みをなし、被告野田が被告脇田の話を怪みながらもこれを承諾したこと、これにより被告野田は人夫を用い、同年四月二九日から五月三日に至る間、無許可で愛知県江南市大字鹿子島字柳原地先木曽川水系南派川の河川区域内において土砂を採取したこと、建設省中部地方建設局木曽川上流工事事務所木曽川第一出張所の係官松井宇三郎、同牛田喜八郎らの強力な中止要請により同所での土砂の採取が中止されたこと、被告野田は場所を岐阜県羽島郡笠松町無動寺字村南二四三番の一地先木曽川水系北派川の河川区域内に転じ、無許可で昭和四三年五月四日ころから同月二五日ころに至る間、前記出張所および木曽川上流工事事務所の係官らの再三、再四に亘る抗議を全く無視し、ドラグ・ショベル数台、トラック一〇数台を動員して土砂を強引に採取したこと、採取の量は少くても五三、七〇〇立方メートルに達すること、右採取には被告脇田の人夫が立会っていたこと、被告野田から被告脇田に対し、右土砂の代金として金四七〇余万円が支払われたことが認められる。≪証拠判断省略≫

四、被告主張の抗弁第一項記載の事実は、被告両名の各本人尋問の結果の一部以外にこれを認めるに足りる証拠はないところ、被告野田本人尋問の結果の一部は被告脇田からの伝聞に過ぎず、被告脇田本人尋問の結果の一部は前後相矛盾し、かつ、売買の価額、履行期、代金に充てるべき土砂採取の量、採取期間等、重要な事実について不明確であって、ともににわかに措信することができない。よって右抗弁は理由がない。

抗弁第二項については、仮処分の執行は本案の請求の当否に影響がないのであるから(最高裁判所第一小法廷昭和三五年二月四日判決民集第一四巻第一号五六頁参照)、主張自体失当といわざるをえない。

五、よって被告らは許可なく、土砂(切込砂利)を少くとも五三、七〇〇立方メートル採取したものであり、これが原状回復をなす義務を負うものであるところ、そのうち五二、五〇〇立方メートルの土砂の原状回復を求める原告の本訴請求は正当であるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用し、なお仮執行の宣言については相当でないからこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 丸山武夫 裁判官 川端浩 太田幸夫)

<以下省略>

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